太子の少年
在宅クリニックを開業して約半年が経ちます。それまでは勤務医だったため、組織の代表として働いた経験がなく、開業してから起こるあらゆることが初めての体験でした。もちろん心理的に負荷がかかることもありました。そんなときには、簡単で面白い、ある意味くだらないと思える本を読むことを、自分なりのストレス解消法にしています。
この間偶然書店で見つけた『太子の少年-令和言葉・奈良弁で訳した万葉集-』(佐々木良著)はとても面白く、笑いながら読めて、さらに示唆に富む内容が多かったので、少し紹介してみたいと思います。この本では副題の通り、万葉集を現代語(奈良弁)で訳して紹介してくれています。万葉集は今から約1300年も前に作られたもので、古典に強い人でないとそのまま読むのは困難です。言葉自体が難しいのもありますが、現代の私たちには理解しにくい比喩表現が多く使われているからです。そのあたりをわかりやすく、面白おかしく訳してくれており、もし書店で見かけたらパラパラとページをめくってもらいたいくらいです。
この本を読むと、1300年前を生きた人も現代人もほぼ同じことで悩んでいるのだなあと、しみじみ思います。紹介されている歌のほとんどが恋愛の話で、他には子どもが可愛いとか、今の時間が一番大事とか、普遍的な事柄がほとんどです。例えば、こんな歌が載っています。
巻四 764番歌
ももとせに おいしたいでて よよむとも
われはいとはじ こひはますとも
「君が100才のおばあちゃんになって 舌ベロ~ン 腰グンニャ~ ってなってても 今よりもっと好っきゃで」
巻十四 3410番歌
いかほろの そひのはりはら ねもころに
おくをなかねそ まさかしよかば
「将来のことばっかり考えんといて! 今が幸せやったら それでええやんか」
どちらの歌もJ-POPの歌詞で何回も見たことがある内容のように感じます。すぐに思い浮かぶだけでも、上の歌はMISIAの『アイノカタチ』、下の歌は優里の『ビリミリオン』で同じようなの内容が歌われています。
『アイノカタチ』(MISIA)
愛にもしカタチがあって
それがすでに わたしの胸に はまってたなら
きっとずっと 今日よりもっと あなたのことを知るたびに
そのカタチはもう あなたじゃなきゃ きっと隙間を作ってしまうね
『ビリミリオン』(優里)
僕が生きてるこの時間は
50億以上の価値があるでしょう
生きているだけで丸儲け
これ以上何が欲しいというの
他にも探せばたくさん似たようなJ-POPが見つかると思います。1300年もの時を経ても、人間はほとんど変わっていないですね。今も昔も、同じような事で悩んでいるのだと思うと、少し気持ちが楽になります。肩の力を抜いていけばいいのだなと。
ただ、『太子の少年-令和言葉・奈良弁で訳した万葉集-』に載っている歌のほとんどが恋に関する歌でして、さすがに昔の人、恋に悩みすぎだろとはツッコミたくなりますが…それも人間の性(さが)なのでしょうか。