「離見の見」という視点が、医療にもたらすもの

── 世阿弥に学ぶメタ認知と成長の本質

「風姿花伝」という書を知っていますか?
室町時代に世阿弥が書いた、能の理論書であり、いわば“芸の秘伝書”とも言えるものです。

その中で、私がとくに好きな言葉があります。

「離見の見(りけんのけん)」

これは、「自分の姿を、自分の目で見るのではなく、他人の目で見る」という視点です。
世阿弥は、「舞台上の自分を、客席から見るようにして、自分の所作を整えよ」と説いています。


離れて見ることが、自分を整える

私たちはつい、「自分の視点」=「正しい視点」だと思いがちです。
でも、周囲からどう見えているか、俯瞰してみると、振る舞いや言動が変わります。

  • 例えば、自分では“丁寧に接している”つもりでも、相手からは冷たく見えているかもしれない。

  • 自分では“協力している”つもりでも、周囲からは自己中心的に映っているかもしれない。

それに気づけるのが、「離見の見」という視点です。

これは優秀なサッカー選手が、ピッチ全体を“鳥の目”で見るように、
自分のポジションだけでなく、全体との関係性を瞬時に捉える力にも似ています。


医療における「離見の見」

医療の現場でも、「自分の視点だけで判断しない」という姿勢はとても重要です。

  • 医師としての立場

  • 患者としての思い

  • 家族の目線

  • 看護師やスタッフの立場

それぞれの視点に立って物事を見ることで、言葉の選び方や判断のしかた、立ち居振る舞いが変わってきます。

そして、これは現代でよく言われる「メタ認知」にも通じています。
“自分を一歩引いて見る”“感情や行動を客観視する”という力が、冷静な判断や成長につながるのです。


成長とは、「見え方」が変わること

世阿弥は、他にも名言を数多く残しています。

  • 初心忘るべからず

  • 秘すれば花

  • 守破離(しゅはり)

どれも、自分を磨くうえでの大切な軸です。
なかでも「離見の見」は、“自分の外にある視点を持て”という、極めて実践的なアドバイスです。

私たちが他者と共に働く以上、
「自分がどう見えているか」に無自覚でいることは、時にリスクにもなり得ます。
だからこそ、自分を離れて眺める力=「離見の見」が、医療という仕事の本質にもつながると感じています。


おわりに

これが何百年も前に書かれた“秘伝の書”に記されているというのは、本当に驚きです。
芸の道も、医療の道も、結局は“人を見て、人に見られて”成り立っている。
その本質を、世阿弥は見抜いていたのかもしれません。

自分の視点を離れ、他者の視点で自分を眺める。
そして、そこから新たな所作をつくっていく。

そうした「視点の切り替え」が、今日の診療でも、ふとした人間関係の中でも、
小さな変化をもたらしてくれるかもしれません。

※院内ミーティングより

これは、毎週金曜日の朝に行っているスタッフ向けミーティングで話した内容のひとつです。
私たちのクリニックでは、「なぜこの仕事をしているのか」「どうあるべきか」といった価値観の共有を大切にしています。

こうした考え方は、内部のメンバーだけでなく、
訪問診療に関わるご家族や関係者の方、地域の皆さんとも分かち合っていけたらと思い、今回ブログという形にまとめました。

一覧へ戻る
お電話でのお問合せ